い草の良い香りとさらりとした手触りが、暮らしの中に癒しを与えてくれる「畳」。
最近ではマンションの普及等による住環境の変化もあり畳の間がない家も珍しくないですが、とは言え、今でも一戸建て住宅では和室を取り入れた設計が人気です。
よく見かけるのはリビングの続き間で和室が設けられていたり、中には畳コーナーだけのタイプもありますよね。
子供の遊び部屋にしたり、冬場にこたつを置いてくつろいだり・・・。
何かと家族団らんの場に使いやすい和室ですが、家を購入した際に備え付けられている畳の多くは中国産だということをご存じでしょうか?
家族の体が直接触れるものなので、知っておきたい「畳」のキホンを、今回はご紹介したいと思います。
お話をお伺いしたのは、株式会社矢野畳商店の三代目社長 矢野 孝幸さん。
株式会社矢野畳商店は昭和30年に創業し、今年で64年目を迎える老舗の畳屋さんです。
京都・宇治にお店と畳工場を構え、畳の製造や販売・修繕から襖や障子のメンテナンス等まで対応されています。
元々はハウスメーカーや工務店に向けて格安で手に入る中国産の畳のみを取り扱ってこられましたが、一昨年から一般のご家庭に向けてのサービスを開始されました。
一般のご家庭に向けての商品はすべて国産の京畳のみ。
もちろん中国産に比べて価格は高くなりますが、あえて一般のお客様には国産しか取り扱わないと決めたのには理由があります。
国産畳へのこだわり。
国産と中国産は、知らないと一見で見分けることは難しいのですが、使い込むうちにその違いは歴然となってきます。
畳の構造を説明しながら、その違いや畳を入れ替えたり補修する際の注意ポイントをお伝えしていきたいと思います。
畳の構造。
畳は、「畳床」・「畳表」・「畳縁」と、いたってシンプルな構造でできています。
本来、畳床とは稲藁を幾重にも重ねて締め付け、圧縮して作られたものを言います。天然素材100%な上に、大量の稲藁を使用するので湿気を調節してくれたり、防音・防火・断熱・耐久等にも優れています。
一方、近年流通の主となっている畳床は、稲藁の代わりに木材チップの圧縮板で発泡スチロールをはさんだ建材ボードを使用したものがほとんど。
畳床は畳の中に隠れているので一見見分けはつきませんが、重さと足あたりが全然違います!稲藁をびっしり敷き詰めたものはずっしりと重みがあって踏みしめた時の弾力感が心地よく、建材ボードでできたものは軽いので簡単に持ち運びが可能ですが踏み心地を硬く感じる方も多いと思います。
安価なため国産畳に建材ボードを使用するところも多いのですが、矢野畳商店では本来の畳床にこだわり、稲藁を使用した畳床のみを国産畳には取り入れています。
畳の顔とも言える「畳表」。
畳表は、経糸にい草を織り込んで作られています。
国産のい草は一般的に高品質なものがほとんどで、い草の質や長さ、色や本数等によって等級付けされた中から選別して織り込まれています。
枯草は排除されますので、自然ない草の緑を感じることができるのも特徴です。
中国産のい草は国産のものに比べて約1ヶ月早く収穫されて輸入されるので、未成熟なまま運ばれてきます。そのためい草の品質や色味はバラバラかつ表面がモロく折れやすい。それをカバーするために化学染料や染色加工を施して人工的な緑を作り出しています。
また、国産のものはい草を乾燥させる過程で低温のままじっくり長時間をかけて行うのに対し、中国産は長時間の輸入に耐え得るため、虫やカビの発生を防ごうとして高温・短時間で行った上に防虫剤や防カビ剤を使用します。
そのためい草が乾燥しすぎて水分がほとんど残らず、表皮はカサカサに毛羽立ち、い草本来の粘りや弾力性も失われてしまいます。
畳の部屋に座っていたら畳のささくれが引っかかって足がチクチクしたり、畳くずが洋服に付いてしまって困ったという経験はありませんか?実はその原因の殆どは、中国産の畳が乾燥しすぎていることによって起こるものなのです。
経糸の違い。
経糸には綿糸と麻糸があり、麻糸の方が綿糸よりも丈夫に仕上げることができます。
こちらの写真の右側(上に置いてある方)が中国産、左側(下にある方)が国産の畳表になりますが、その差は一目瞭然ですよね。
中国産のものは綿糸のみで、国産は綿と麻を使っています。経糸が丈夫であれば、当然それだけ多くのい草を織り込むことが出来るのでぎっしりと目の詰まった丈夫な畳表を作ることができ、かつ美しい山形が表面に作られて厚みが増すために、足の踏みしめや肌触りが良くなっていきます。
い草の効果。
い草の香りには癒やし効果があり、嗅ぐだけでリラックスした気分にさせてくれますが、い草には他にもたくさんの効果があるのです。
い草の内部には無数の穴が開いていて空洞になっています。その穴に二酸化窒素やホルムアルデヒドなどの有害物質も吸ってくれる性質があるため人に優しく、また天然素材100%のため焼却されても有毒ガスを排出することがなく、環境にも優しいエコ素材となっているのです。
職人の技が表れる「畳縁」。
畳縁は畳を補強するため、畳の長い辺につけられている布のことを言います。
かつては身分によって使用できる畳縁が決められていましたが、現代では好みによって自由に柄を選べるようになって多様化してきています。
この畳縁部分は職人技が表れる部分で、素人が行うとガタガタに仕上がって見た目が不細工になってしまいます。美しい直線に仕上げるのが職人技なのです。
「框板」。
矢野畳商店では、框と呼ばれる畳の短い方2辺に「框板」と言う板を入れてきっちりとした美しい角に仕上げています。何もない状態でそのまま畳表を張ると畳床の角が傷みやすく、角が取れてしまう恐れがあるからです。
この作業はすべて手作業の為、当然中国産の大量生産の畳には施されていません。仕上げの美しさにまでこだわるところが、国産ならではですね。
3年後、10年後を考えて畳を選んでほしい。
畳は通常3年で裏返し、さらに3〜5年で表替えをするとキレイに使えると言われています。
畳表に日焼けによる色あせや擦り切れ、痛み等が目立ってきた時に行われるメンテンナンス方法が裏返しで、ただ単に畳を裏返すのではなく畳床から一度劣化した畳表を剥がして裏返しにし、きれいな部分を表にすることを言います。
しかし、中国産の畳の場合は裏返しのメンテナンスを行っても元々のい草の状態が良くないためあまり効果がなく新調しなければいけないことも多いので、長い期間を考えるとかえって高くつく場合があります。
また、国産のい草は年月を経るごとに現れる色あせが畳全体をあめ色に変化させるので大変美しく、その変化を楽しむこともできるのですが、中国産の場合はまだらに色あせてしまうため美しくない状態になります。
本物を届けたい。
取材の際たくさんの畳に触れさせていただきましたが、知れば知るほど、こんなにも明らかな差があるのだということに驚かされました。
矢野さんも、三代目として家業を継ぐ際、一般の方がそもそも畳にメンテナンスが必要だということを知らない人が多かったり、人にも環境にも優しくない畳で小さなお子様がはいはいをしている様子を見て、危機感を覚えたんだと言います。
「本物の畳は舐めてもいいくらいなんです」
安心で安全なものを使ってほしい。
昔は7000軒もあったい草農家は、今年480軒にまで減少してしまいました。普及されている畳も現在では80%が中国産です。このままでは国産畳がなくなってしまう。
その危機感から、矢野畳商店では一般のお客様向けに国産畳を提供することを決めました。
現在の技術を生かし、手縫いの高級国産畳だけでなく一部に機械編みを利用してコストを下げた畳の製作にも積極的です。
少しずつでも国産畳が再普及していくよう、これからも精力的に取り組んでいくと、力強く矢野さんは答えてくださいました。
いかがでしたか?
自分の家の畳は大丈夫だろうか・・・?!と不安になったみなさま。
年明けの慌ただしさが落ち着いた頃に、一度メンテナンスが必要かどうか確認してみるものいいかもしれませんね。
<株式会社 矢野畳商店>
〒611-0041
京都府宇治市槇島町郡13-6
TEL 0120-05-1193
FAX 0774-26-1869
営業時間 9:00 〜 18:00
https://yano-tatami.jp/
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