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「手あと」の残る仕事。

金工作家・Ren。

日本では、弥生時代初期の紀元前200年頃から金属を加工することで様々な工芸品(金工品)が作られてきました。
古くは馬具や剣・鏡などの装飾から鍋やはさみ、カトラリーといった実用品に至るまで。実は身近なところで触れる機会も多く、生活を豊かにするために必要な存在である金工品たち。

今回は、京都に工房を構える金工作家・Renさんをご紹介しながら、金工品の魅力にも迫っていきたいと思います。



金工品店「Ren(レン)」。







銀閣寺の程近く、京都市左京区の住宅街にひっそりと佇む金工品店「Ren(レン)」。
工房兼ショップを運営する金工作家・Renさんこと、中根嶺さんにお話をお伺いしました。



金工品とは。







「金工品」とは、金属を加工してできる工芸品の総称を指します。
金や銀、銅、鉄などを主な素材として使用し、3種類の技法を用いることで作られています。

◆鋳金(ちゅうきん)・・・高温で溶ける金属の性質を活かし、鋳型(いがた)と呼ばれる型に溶けた金属を流し込んで形を作る技法をいいます。
◆彫金(ちょうきん)・・・たがねを用いて金属を彫ることで模様をつけていく技法をいいます。
◆鍛金(たんきん)・・・叩くとのびて広がる金属の性質を活かし、熱することで柔らかくなった金属を叩いて形を作る技法をいいます。

中根さんは、この中の「鍛金」という技法にこだわってモノづくりをされています。



金属との出会いと、自分自身で生み出す価値について考える。





中根さんは、実家が滋賀で焼き物屋さんを営んでいたことから、モノづくりに触れる機会の多い幼少期を過ごしてきました。
学校の友達がバス釣りにハマる中、中根さんは釣りに使うルアー作りの方に夢中になっていたほど。

美術系の高校へと進学した後、表現したり作ることを仕事にしたい気持ちはあるものの、いざ生業にと思うと難しさを感じたり職種を一つに選ぶことができませんでした。
そこで、まずは自活(=自分の力で生きていく)力をつけるためにも上京を決意します。
日本の伝統的技術を活かしたモノづくりを行う企業にアルバイトとして勤務する中で金属チームに配属され、結婚指輪等の製作に携わるようになります。
これが、金属との出会いでした。

たまたま配属されたことで携わることとなった金属の世界。しかし、その加工性がなく簡単に仕上げることのできない難しさに悔しさを覚える中で、どんどん金属の世界にのめり込んでいくこととなるのです。

4年半ほど企業に務めた頃、お客様から受ける質問が心に響くようになります。
それは、「どこからが職人でありプロのお仕事なんですか?」という言葉。

企業の中でモノづくりをしていると、自分の作ったものと言えどもネームバリューや広告効果等に助けられている部分が大きく、自分が作り手として生み出せている価値がどこまであるのかがわからなくなっていたのです。
自分の目指すモノづくりとしての「プロ」とは何なのか・・・?
自分自身で一から十までの価値を作り出す、そんな仕事がしてみたいと思うようになった中根さん。
チームとしてひとつのものを作り上げていく魅力や楽しさも理解した上で、自身は作り手として企業を離れ、独立する道へと進んでいくことを選択するのでした。



”手あと”が残るもの。





冒頭でお伝えした通り、中根さんは「鍛金」という技法にこだわって制作をしています。
なぜ「鍛金」にこだわるのか。
それは、作り出したものすべてに作り手の「痕跡」が残るものだからなんです。

金属を切るときは金鋸(かねのこぎり)を使って切り、曲げたり平たくするには金鎚(かなづち)を使って何度も何度も叩くことでカタチを作っていきます。その一打一打、一削り一削りによって作り上げられていく金属は、逆に言うと、その動作以外のものがカタチに残ることはないのです。
職人の手の動きに呼応することでのみ、作り上げられていくものたち。
そこに「怖さ」と「面白さ」を感じるのだとか。

金属というと硬くて冷たい、工業的なものをイメージすることが多いと思いますが、その加工の仕方ひとつで表情は全然違ってくると、中根さんは言います。丁寧に仕上げていくことで、軟らかくて温かい、まったく別の表情に変化させることも可能なのです。

初めはただの金属の塊が、中根さんの手を介して形が変わり、表情を増していく。そのひとつひとつの動作により、命が芽吹かれていくのですね。






中根さんの代表作である「クジラランプ」。
まるで夜の海を優雅に泳ぐクジラが、そこにいるかのよう。まさに「硬くて冷たい」ものが「軟らかくて温かい」ものに変化した作品ですね。ちゃんと目まであるところが、可愛いい!!







ショップ内の一角に、工房はあります。こんなに小さいスペースで創作ができるんだ?!と思うほど、省スペース。出来上がった作品を見ながら、その創作過程も楽しめるのが嬉しいですね。



人の暮らしや気持ちを豊かにするものを作りたい。



中根さんに今後の展望を聞いてみたところ、
「これからも丁寧に手を動かし続けていくことで、魅力のあるものを作りそこに価値を感じてくださる方が一人でも多くなっていくように頑張りたい」
そう答えてくれました。

自分自身の価値とは何か?その問いがスタートでした。
良くも悪くも、作り手の手の動きがすべて「手あと」として残る金工品作家は、まさにその価値を確認できるものです。自分のひとつひとつの動作がカタチとして残り、そのものに価値を感じて下さる方がいて初めて成り立つ仕事。

モノで溢れかえった現代でも、「素材」でいうと限りがあります。その限りある資源を自分自身の手を介することで命を吹き込み、全く別のモノに変えて、人々に提供する。そんなことを生業にできている今に感謝しつつ、そんなありがたい状況をこれからも続けていけるように、今日も金属と向き合うのだとか。
自分の仕事がカタチに残る。だからこそ、より一層丁寧に、心を込めて創作する。

残った手あとが、人の暮らしや気持ちを豊かにするものになれば・・・その想いを胸に、中根さんはこれからも作品を作り続けていきます。




いかがでしたか?
Renさんのお店は、只今リニューアル準備中!以前は千本鞍馬口・金閣寺にある京町家をリノベーションした「PolarSta(ポーラスタ)」という場所の一角で作品を制作販売されていましたが、この度、場所を移して新たに工房兼ショップを開店することになりました。現在はリニューアル工事中ではあるものの、オーダー等は随時承っているそうですので、是非HPをチェックしたりショップや工房を覗きに行ってみてはいかがでしょうか?


<Ren>
8月からアポイント制でプレオープン、秋グランドオープン予定
〒606-8404 京都市左京区浄土寺下南田町36

ご予約、お問い合わせ 
Tel 075-285-2909

http://ren-craftwork.com/


 

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