最近はすっかり涼しくなり、過ごしやすい気温と穏やかな晴天が秋を感じさせる気候になりましたね。
秋と言えば新米の美味しい季節!
ふっくらツヤツヤの白いご飯にお気に入りのご飯のお供があるだけで、贅沢で幸せな気分になれますよね。
今回は、火加減いらずで自宅でも簡単に美味しいご飯が炊けると話題の伊賀焼土鍋「かまどさん」を生産している伊賀焼窯元 長谷園さんを取材してきました!内容が盛りだくさんだったため、2週に渡りお届けしたいと思います。
まず1回目は、伊賀焼が土鍋に適している所以と長谷園の歩み・想いについてご紹介します。
伊賀焼窯元 長谷園。
長谷園は伊賀焼の窯元や近くには信楽焼の窯元も多く立ち並ぶ三重県伊賀市の丸柱に、1832年( 天保3年 )創業されました。
広大な敷地内には「16連房旧登り窯」をはじめとし、「母(おも)や」や「大正館」など国の登録有形文化財として認定されている歴史的建造物も数多く残されています。
この伊賀の地は、400万年ほど前までは琵琶湖の湖底にありました。「古琵琶湖層」と呼ばれるこの地層から産出される陶土は、400万年前に生息していた生物や植物・魚たちの遺骸が多く含まれています。元々有機物だったそれらのものを含む土を高温の窯で焼くと、細かな空洞ができます。その空洞が集まってポーラス(=多孔質)な生地となった土は、言わば「呼吸する土」。遠赤外線効果が高く、食材の芯までじっくり熱を伝える効果を生み出すのです。
この耐火度の高い伊賀の土は、茶陶としても愛用されてきました。逆に言うと高温でなければ陶器にならない土のため、登り窯のように何時間も何日もかけて焼き上げることで窯の中の灰が作品の表面に幾重にも重なり、それが焼きあがることによって生まれる一期一会の景色がお茶の世界に通じるものがあったとか。
また、伊賀は薪に最適な赤松の産地でもあります。陶器生産に必要な燃料が豊富だったことも、伊賀焼の発展を支える重要な要素だったようです。
国の登録有形文化財に認定されている「大正館」。
大正時代に建てられたもので、30年前までは事務所として使われていました。電話も金庫も当時のまま。現在は休憩室として開放されていますので、大正ロマンの面影をたっぷりと楽しむことができますよ。
圧巻の「16連房旧登り窯」!天保三年(1832年)の創業時から昭和40年代(1970年代)まで実際に稼動していたもので、この16の部屋(窯)を焚き上げるには15〜20日間を要していたそうです。この大きさで現存している登り窯は日本でこれだけだと言われているだけに、大変貴重なものとなっています。
2001年まで代々長谷家の住居として現窯元も暮らしていた「母(おも)や」。立派な茅葺屋根が印象的で、毎年5月に開催される「窯出し市」などのイベント時にのみ、お座敷やお庭が開放されます。実際に住まれていただけあって、暮らしの温もりがここかしこに感じられ、落ち着く空間になっています。
長谷園の園内には3棟の展示室・資料館・体験工房・休憩所・展望台などが整備されており、観光として訪れても見どころ満載で楽しめます♪
こちらは、資料館に保管されている貴重な歴史的作品のひとつです。
倒産の危機を乗り越えて。
お話を聞かせてくださったのは、8代目当主である長谷康弘さん。元々は東京の百貨店に勤務していましたが、阪神・淡路大震災後倒産の危機にあった長谷園を立て直すべく、戻ってこられました。
当時の長谷園は陶器よりも外壁タイル商材の方が主力で、事業の約7割を外壁タイル事業が占めていました。4500坪ものタイル専用工場を建設する等多額の投資を行っていたにも関わらず、外壁タイルが阪神・淡路大震災の被害を助長させたとしてキャンセルが相次ぎ、一気に倒産の危機に追いやられることになりました。
その危機を救ったのが、「かまどさん」の大ヒットだったのです。
「作り手は真の使い手であれ!」
長谷園では、「作り手は真の使い手であれ!」の精神のもと様々な調理器具が開発されてきました。
「長谷園の発明王」であった7代目当主 長谷優磁さんは、倒産の危機にありながらも伊賀焼の特性を生かした商品の開発に勤しみ、誰でも簡単にふっくら美味しいご飯が炊ける「かまどさん」を生み出します。
できあがった土鍋を何度も自分自身で使ってはご飯を食べ、納得できるものができるまで約4年かかりました。試作品は1000個以上にも上りようやく出来上がった自信作でしたが、販売当初の反応は厳しいものだったと言います。
融資を依頼していた銀行にも、「炊飯器で簡単に米が炊けるこの時代に、誰が土鍋で炊くんですか?!」「そんなものを開発しているからダメなんですよ!」と、痛烈な言葉を浴びせられたとか。
しかし、一度でいいから食べてみて欲しい!と「かまどさん」を渡して帰ると、その夜にわざわざ電話があり、「これは美味しい!もしかしたらもしかするかも・・・。」と、その美味しさを認めてくれるようになったのです。
こうして生まれた「かまどさん」は口コミでどんどん広まり、今では累計95万台以上も売り上げる大ヒット商品となりました。
「いかに飯をうまく食い、いかに酒をうまく呑むか。」
長谷園で生まれる商品の数々には、作り手のこだわりと想いが詰まっています。
その原点となるのが家族で囲む食卓です。
長谷園には、「企画会議」というものがありません。開発のきっかけは、常に「食卓」にあるのです。
従業員や家族が食卓を囲みながら「もっと美味しく食べるためにはどうしたらいいか?」を話し合い、そこででたアイデアが商品開発へとつながります。
ご飯は炊きたてが一番美味しい。蒸し料理は蒸したてが一番美味しい。なんでも、できたてのその瞬間が一番の「食べごろ」です。その瞬間を味わうためには、キッチンで仕上がったものを器に盛り、食卓に運ぶのではなく、食卓でその瞬間を味わうことが最適なのです。
だから、長谷園の商品の多くが卓上で活躍するものになっています。
みんなで囲む食卓が、いつも「楽しく」「美味しい」ものでありますように・・・それが長谷園の願いなのです。
毎年5月2日・3日・4日に開催される「長谷園窯出し市」。例年3万人を超えるお客さまが訪れる一大イベントになっています。アウトレットの土鍋を始め、デッドストックの陶器など掘り出し物がたくさん並びますので、一期一会の出会いがあるかも・・・?!
長谷園のみならず伊賀焼や信楽焼の窯元も多数出展されており、飲食コーナーでは土鍋ご飯と一緒に伊賀で採れた山菜を食べることもできます。
いかがでしたか?
次回は実際に「かまどさん」が作られている工程をご紹介しながら、美味しいご飯が炊ける秘密に迫っていきたいと思います。お楽しみに♪
<長谷製陶株式会社>
〒518-1325 三重県伊賀市丸柱569
TEL:0595-44-1511
https://www.igamono.co.jp/index.html