平安時代から江戸時代まで1000年にわたって都が置かれてきた京都では、様々な伝統産業や伝統工芸が生まれ、育まれてきました。
「京竹工芸」も、その中のひとつ。京都が世界に誇る伝統工芸品です。
夏は暑く冬は寒い京都の気候風土は良質な竹を育てるのに適しており、それに加えて茶道や華道の発展が京都の竹工芸を質の高いものにしてきました。
今回ご紹介するのは、そんな京竹工芸の技術を駆使して竹籠バッグ等を製作されている竹工芸職人の細川秀章さん。
「全国伝統的工芸品公募展 内閣総理大臣賞受賞」を始めとした多数の受賞歴をもち、代表作である竹籠のクラッチバッグは、なんと約半年待ちという人気ぶり。
伝統工芸に新たな風を吹き込み、現代のスタイルにもマッチした竹籠バッグの製作に取り組む細川秀章さんにお話を伺ってきましたので、是非ご覧ください。
脱サラから竹工芸職人へ。
今回訪れたのは、「竹工房 喜節(きせつ)」。
竹工芸職人の細川秀章さんは、京都・二条城の西北側にあるこちらの工房で、洗練された技と長年培われた経験を生かして新しい竹籠バッグを生みだし続けています。
元々は東京で会社勤めをしていた細川さんですが、30歳の頃転機が訪れます。大きな組織の中で一部分だけを担い、自分の成果がわかりにくい状況よりも、よくも悪くも成果がダイレクトに自分自身に返ってくる環境を求めて11年間勤めた会社を退職する決意をします。
小さな頃から釣り道具やアクセサリーを作ることが好きだった細川さんはその後、手仕事の極みである「伝統工芸」の世界に飛び込むこととなるのです。
伝統工芸の道に進むことを決めたものの何をどうしていいかわからず、ネット等でその入り口を探すうちに「竹工芸」に惹かれていきます。陶芸品や木工品のようにどうやって作るのかが何となくわかるものではなく、どこで竹を手に入れて、どうやって編めば竹籠ができあがるのか…どうせやるなら、想像もできない世界に飛び込んでみたかったのです。
竹工芸職人になると決めてから、まずは伝統工芸を幅広く学べる「京都伝統工芸大学校」へ入学します。
しかし、2年間基礎から必死に学ぶ中で感じたことは、技術を身につけても伝統工芸の世界で生計を立てていくことはかなり難しいという現実でした。後継者問題もあり、減少の一途を辿る竹工芸の世界において、弟子を雇っているところも就職先として門戸が開かれている工房も、当時はほとんどありませんでした。
竹工芸で作るクラッチバッグの誕生。
「独立して自分でやるしかない…!」覚悟を決めた細川さんは、学校を卒業後アルバイトで生活費を稼ぎながら大学から紹介してもらった竹籠の実演や知り合いを通して受けた仕事をこなしていく毎日を過ごします。
依頼があるのは、「こんなの欲しいんだけど、作れない?」というオーダーがほとんど。独立当初はどんな依頼でもありがたく、作った経験のないものでも受けては、受けてから作り方を試行錯誤して完成させていました。しかし、そんなスポットの発注ばかりに対応し続けるうちに、このままでは長くは続かない…と悟ります。
1個1個の制作に時間をとられすぎるのと、完成させることでせっかく掴んだノウハウも、次に生かされることはほとんどなかったのです。
そこで、自分でコントロールできる注文を増やすためにも柱となる定番商品の開発に取り組むようになります。
商品開発にあたって思い出したのが、卒業制作で制作したトランクケースです。発表した際にかなり評判がよく、高く評価されたのです。
「そうだ!男性が仕事に使うアタッシュケースやブリーフケースのようなものを竹籠で作れれば、需要があるのではないか?!」
こうして細川さんは竹籠バッグ作りを手掛けるようになり、今となっては細川さんの代表作とも言える商品となったクラッチバッグやセカンドバッグが生み出されていくこととなります。
半年待ちのクラッチバッグ。1個を仕上げるのに約1週間はかかります。
当初は、竹籠と言えば花器や竹ざる、アクセサリーのような小物が主流の時代。竹籠で作るスタイリッシュなバッグは、まさに新旋風でした。
1点1点すべて手作りという竹籠バッグ作りの工程を、一部見せていただきました。
まずは、「竹の割りへぎ」という作業。
これは、必要な長さに切った竹を「竹割り包丁」を使って適した細さまで割っていき、表面の皮を薄く剥ぐ(へぐ)作業になります。竹工芸の世界には「竹割り三年」という言葉がある通り、簡単そうに見えるこの作業には実は熟練の技を要します。同じ幅、薄さに合わせて竹を整えるには、長年の経験と技術が必要なのです。
次は、「巾引き」という作業です。「割りへぎ」でだいたいの細さに切っていたものを、丸太に打ち込んだ2本の小刀の間を通すことによって均等な幅に揃えていきます。この幅は出来上がりの印象を大きく左右するため、精度が求められます。そのため、巾引き道具を使って機械でこの作業を行う職人さんも多い中、細川さんは手作業にこだわります。
小刀を打ち込む角度や配置、引き方には熟練の技が光ります。
「巾引き」が終わると、今度は「面取り」によって竹の角や隅を斜めに削っていきます。割ったままの竹では角や隅が尖っているため、「面取り」によって丸く滑らかな手触りになるよう仕上げていくのです。
次は「裏すき」と呼ばれる、小刀を使って竹の裏側をすいていく作業です。これによって竹の厚みを整え、ささくれている竹の裏面をきれいにしていきます。竹の厚みを整えることで、この後の竹編みのしやすさが格段に違ってくるそうです。
いよいよ、「竹編み」という竹を編んでいく作業です。基本的な編み方は8種類ほどですが、その変形や組み合わせによって形状や編み模様に無限のバリエーションがあるそうです。
編みあがったら、漆塗、奥様によるバッグ内装の縫製などを行い完成します。
ここまで手仕事にこだわって1個1個を製作していたら、なるほど製作期間に1週間はかかるのも納得です。
伝統工芸職人の道しるべになりたい。
細川さん曰く、「竹は日本人にとって馴染みの深い素材」。
外国の方は竹そのものを見たこともない方が多いが、日本人は切った竹を見ても竹林を思い起こすことができるほど、DNAに刻み込まれています。一度切っても、2.3年したらまた伸びて利用できるところからも、昔から生活に使用する素材として慣れ親しんできました。
そんな竹という素材や竹工芸に助けられてここまでこれたという想いから、これからは恩返しをしていきたいと細川さんは語ります。
そんな想いと自身の学生時代、せっかく技術を学んでも生かす場所がなく卒業後の進路にかなり苦労をした経験から、自分がどうやってここまできたのか等を学生に伝える活動も精力的に行っています。
3年前から弟子の受け入れを始めたのも、職人の受け皿を少しでも多く作るためです。
竹籠でセカンドバッグやクラッチバッグを作るという技術は、細川さんが試行錯誤した結果生みだしたもので、竹工芸という伝統的な技術に新しい息吹をもたらしました。これを自分だけの技術としてしまうと、自分が後々引退した時には同じものを作れる人がいなくなり、根絶えてしまいます。
この技術が産業の一部となり代々職人に受け継がれていくように、後継者の育成に励みたい。
自分を育ててくれた竹工芸の世界に少しでも恩返しができるよう、後ろに続く人々の少しの道しるべになるため、これからも日々技を磨いていきたいと思います。
そう語る細川さんの背中を、これからもたくさんの職人さんが追いかけていくことになるのでしょうね。
いかがでしたか?
細川さんの作品は、随時facebookにUPされています。素敵なバッグがたくさんありますので、是非チェックしてみてくださいね♪
<竹工房 喜節>
〒602-8158
京都市上京区下立売通千本東入下ル中務町486-66
TEL/FAX:075-406-0919
定休日:不定休
※ご来店の際は、電話にてご確認ください。
▶blog
http://takekisetsu.blog.fc2.com/
▶facebook
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