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身近で楽しい「書」に触れられるアトリエ

「京都文字美術研究所(Mojibi)」

小学校の頃に、「習字」や「書写」の授業などで毛筆に触れたことが一度はあるかと思います。けれども、大人になって改めて意識して書道というものを見ることはあまり多くないかもしれません。
今回は、京都で書家「玉雪(Tamayuki)」として活動されている田村由紀さんにお話をお伺いしてきました。文字を書くこと自体の面白さだけでなく、文字を書くだけに留まらない「書の表現世界」の面白さ、ぜひ感じてください。

広がる書の表現世界



新大宮商店街に2012年にオープンしたアトリエ、『京都文字美術研究所(Mojibi)』。オーナーは書家「玉雪」として活動されている田村由紀さん。

田村さんが書道に興味を持ったのは9歳の頃。小学1・2年生の時の担任の先生の美しい手書き文字にとても憧れ、自分もそんな風に書けるようになりたいなぁと思っていたところ、お友達が習字教室に通うというのを聞いて「私も行きたい!」と強く思い、自分から親御さんににお願いして習い始めたそうです。



小・中学校は習い事として書道を続けていましたが、高校の芸術科で書道を選択して、そこで今まで知らなかった芸術として広がる「書の表現世界」に魅せられた玉雪さん。大学・大学院と更に書について学びを進めてく中で、書の世界とひとことに言ってもいろんな分野や取り組み方があることに気づき、「これから書はもっと新しい形になっていく」とも直感的に思われました。玉雪さん自身が感じたその感覚を大切にしていきたいとの思いから、日常に溶け込む字や、生活様式が変化していってもそれに合わせて継承されていくような「書のカタチ」を探求したいと考えて、最初はそのひとつの分野としてデザインの現場に飛び込み、緑茶のパッケージを作る会社で仕事を始めたと言います。



玉雪という名前も、その会社で生まれたもの。会社名の一部と、自分の名前を合わせて作った名前だそう。ひとつひとつの縁が合わさって、今の活動に繋がっているんですね♪

楽しむという気持ちの大切さ



京都文字美術研究所では、「楽しむ書 文字美茶論(モジビサロン)」という名称で教室を開催。一般的な書道教室のイメージの指導にとどまらず、それぞれの生徒さんにやってみたいと思うことから自由に筆を持って取り組んでいただき、まず書の楽しさ感じてもらうことを尊重したいとの思いから、このネーミングにされたそうです。





教室について、もともとは自分が誰かに教える側に回るイメージは無かったとか。近隣の方に「ぜひ教えてほしい」と声をかけられたことがきっかけで縁があり、そこから今に至るまで広がっていったとのこと。「教室」ではなく「アトリエ」として開いているのも、習い事やお稽古事と考えると難しいイメージを抱いてしまうので、もっと肩ひじを張らずに気楽に来てもらいたいという想いから。



何事でもそうですが、ひとつのことへの取り組みを続ける中で、メンタルの高低は必ず訪れるもの。「苦行は続かないので、楽しくやることが一番大事!(笑)」
玉雪さんはそう考えています。

向上心は楽しんでやっているうちに後からついてくるので、それぞれの目標に対して「ここをこうしてみたらいいかもしれません」と、必要に応じてその人の持ち味を大事にしながらアドバイスをすることを心掛けているそう。たしかに、習い事と考えたら「もっと練習しなきゃ、上達しなきゃ」という義務感が出てきて辛くなることもありますが、楽しい趣味だと思っていたら数をこなしている間に自分なりに上達できますよね♪

北大路堀川にあるカフェのギャラリースペースを借りて、不定期に生徒さんの作品の展示会も行っています。どう飾ろうかと想像しながら作品を作る楽しさを感じられたり、また、展示で興味を持ってアトリエに来てくれたりする人もいるそう。アートの力で人と人が繋がるって素敵ですね!



書を楽しむ気持ちはこんなところにも。アトリエの真ん中に置いてあるテーブルに乗っていた丸いガラスや形の良い石。実はこれは全て文鎮。ガラス細工が好きで、作家さんのものから旅行先で見かけたものまで、気に入ったものを揃えられています。石は、山・海・川に行った時に「あ、これ文鎮にできそう」という視点で石を見て拾ってこられたもの。常に書に通ずる視点で日常を見られているんですね。



また、現代の暮らしにも溶け込むデザインの書道セットができないか…との思いから、筆・墨・硯はもちろん水差し・文鎮・筆置きなども、玉雪さん好みの1点1点を選んで、いくつかセットを作りました。それらを収める「箱」が最後まで気に入ったものが見つからなくて、結局オーダーして作ってもらったそう。木端を使うので同じものは2度と作れないところも気に入っているそうです。こんな書道セットなら欲しくなりますよね!



こちらは手作りで束ねて作った筆。筆を自作する発想はなかったので驚きでした!

日常の延長にある「書」





玉雪さんの作品は、書道と聞いて一般的にイメージするような作風だけにとどまらない、自由なスタイルで作られています。あたたかい詩を書いたものから、かわいい動物のイラスト、はたまた絵にも見えるように大きく字を崩したもの、感性に訴えるような抽象的なもの……アトリエに飾られているものだけでも、様々な作品があります。





私が思わず目をとめたのは、このフクロウとクジャクの2枚。フクロウはシンプルな線と滲んだ墨がやわらかくていいな~と思いますし、クジャクは細かいディティールが省略されているのに「あ、クジャクだ!」とわかるのがオシャレ!

「今の人の言葉の感性も取り入れたくて、若い人に人気のアーティストや、ボーカロイドの音楽も聴いたりしています。そういったアーティストの生み出す言葉ってすごく鋭くて、心に響いたりするんですよね。」
たしかに言葉の持つ力で人の心を動かすことが出来るという点は、昔から書道で書かれてきたような古典文学でも、流行りのアーティストの歌詞でも、きっと同じなんですね!



壁に飾られていた生徒たちの作品も、自由にのびのびと描かれた作品ばかり。









きっと楽しそうに描いたんだろうなあと、お教室の雰囲気と子どもたちの輝く目が作品から伝わってくるようでした♪





2021年に開催した『みづのすがた』という展示会をきっかけに、最近は「水」というテーマを突き詰められている田村さん。水はH2Oというシンプルな物質。それが雲になったり食べ物のもとになったり、一方で人間の60%を構成していたりもする様が面白いし、色々な創作スタイルに挑戦する自身の姿勢も、そんな水の姿に重なると語られます。





こちらはその展示会で飾られていた「龗(おかみ)~京都の水を司る守護神~」という作品。雪の模様をあしらった布に書かれた龗(おかみ)の字。龗は、水や雨雪を司る神様のこと。そしてこの字を書いた時に出来た滲みが京都の地下水を表している、そんな一連の作品です。
「昔当たり前だったことを日常に取り戻すような、そんなことを書を通して伝えられたらと思っています」
実は、京都の文化と信仰は地下水とも密接に関わっていると併せて語ってくれました。例えば有名な貴船神社も、この龗に強い関わりのある神社だとか。恥ずかしながら、京都に住んでいながらあまりその歴史を知らなかった私は、今回のインタビューと作品を通してとても勉強になりました。皆さんも、興味を持たれた方はぜひ調べてみてくださいね。



墨や紙が違えば出来上がる作品も変わりますし、その時の自分にしか書けない字があります。それは人生と同じで、書や作品作りを通してそうした観点から自分を見つめているそう。自分のやりたいことを表現するために自分を受け入れること。今を大事にすること。書はそういった姿勢も教えてくれるんですね。



これからの活動について尋ねると、水がテーマの作品をもっと描きたいという想いのほかに、いつかアトリエの一角にカフェを作りたいと語ってくれました。
「あとは地下水を掘りたいですね、金銭的にまだ無理なんですけれど、でも調べてみたらそこの道路を掘ること自体は出来るみたいなんですよ」
そう笑って話される田村さん。展示会をきっかけに縁が繋がったように、アートを楽しめるカフェで商店街をもっと盛り上げることが出来れば素敵ですよね!
地下水も、実現したら新大宮商店街の新たな名物のひとつになる……かも!?


いかがでしたか?
伝統を大切にされながらも、自由な発想で生み出される「書」に触れることが出来る、そんな素敵なアトリエ。教室の見学・体験もやっていますので、是非足を運んでみてください。


京都文字美術研究所(Mojibi)
〒603-8216
京都市北区紫野門前町1-2
電話 075-493-1193
営業時間 10:00から19:00
(木曜は15:00まで)
定休日 土、日、祝日
ホームページ http://shin-oomiya.jp/shop/065/065.html


 

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