皆さんは時間を忘れてしまうほど何かに熱中した経験はありますか？
寝る暇も惜しいと思えるくらい、何か夢中になれるものに出会うことは、人生において大きな財産になるのではないかと思います。
人は自分1人の人生しか経験することはできませんが、いろいろな人の人生を知ることで、疑似体験をしたり、自分の人生だけでは触れられなかった価値観を知ることができたりしますよね。
『百人百色』は、さまざまな人生を歩まれている方々にお話を伺う連載です。

今回はハワイをモチーフとした切り絵作家として活動をされている福田武さんに人生の軌跡や大切にされている価値観についてお話を伺いました。

福田さんのお店『8 gallery & cafe』は、大阪府柏原市にあるカフェ併設のギャラリーです。
店内には福田さんの切り絵作品とアクセサリー作家である奥様の作品が素敵に並んでいます。
なんと2022年12月20日にお店をオープンされたばかり！
おふたりの素敵な作品が詰まった店内で福田さんの人生の軌跡や大切にされている価値観についてお話を伺いました。

アーティストさんというと、幼いころから絵を描いたり作品を作るのが好きだった方が多いイメージ。
しかし、福田さんはもともとはどちらかというと不器用なほうで、自分で何かを描いたり作ったりすることもなければ、アートにも関心はなかったそうです。
そんな福田さんは、どのように切り絵作家への道を歩まれてきたのでしょうか。

「大学を卒業後、1年くらいはサラリーマンをしていましたが、父親がお肉の小売り店を経営していたので、仕事を辞めてそのお店を手伝うようになりました。そこで10年ほど働いた後、独立して焼肉屋さんをオープンしたのが20年ほど前のことです。

その焼肉屋は当時は珍しい凝ったお店で。焼肉＝冷麺のような当たり前が嫌だったので、うどんや台湾風のおそばを出したり、デザートもハワイ系のアイスクリームを出したり、塩タンも塩を4種類から選べるようにしたりしていました。お客さんからも『赤々とした看板付けなあかんで！』って言われるくらい、一見するとき肉屋には見えないようなお店でした。焼肉の大衆的なイメージを変えるお店にしたかったんですけど、20年前はまだSNSも普及していなくて、なかなか上手くいかなかったです。経済的に苦しくなり、子どもも小さいし、お金を稼がなきゃという所に焦点がいってしまうのがしんどかったです。何か新しいことを始めようと思ってもお金がいるし……ともがいていた時に出会ったのが切り絵です。」

「10年くらい前に鎌倉へ家族旅行に行った時、パタゴニア鎌倉店で切り絵の展示会をされていたんです。それまでアートに全く興味がなかったんですけど、フラガールが描かれた切り絵作品を見た時に衝撃が走りました。
決して安い買い物ではなかったんですけど、娘がフラダンスを習っていたこともあり、妻も娘もその絵を気に入って『買ってもええんちゃう？』と言ってくれたので購入しました。その絵は、今でも家に大切に飾っています。」

※1枚の紙を切る技法

※貼り絵のような技法

※数十枚の紙を重ねる技法

「その切り絵を購入したことをきっかけに自分も切り絵をやってみたいと思い、作品を食い入るように見て、見様見真似で製作を始めました。初めは1枚の紙を切る技法を、次に貼り絵のような技法、そして現在主流としている切った紙を20～30枚（多い時は50枚以上）重ねて表現する技法を始めるようになりました。もともとどちらかというと不器用な方でしたが、やっていくうちに不思議とそれなりになっていくもんですね。

だいたいひとつの作品を作るのに2～3週間、ものによっては1ヵ月以上かかります。なので、ひとつの作品に対する思い入れも大きいですね。作品を作っていくと人に見てほしいという気持ちになり、Instagramで発信をしたり、イベントに出店するようになったことで、作品を気に入って買ってくださる方も徐々に増えてきました。自分が作ったものを気に入っていただいて、それを買っていただけるというのはやっぱり嬉しいですね。その積み重ねで今があります。」

「焼き肉屋を閉店してからは、いい機会なので全然違う職業をやってみよう！とマッサージ店に転職しました。シフトの融通が効くので、仕事をしながら切り絵でイベントに出たり、製作をしたりと活動をしたりしていました。
歳は関係ないと思うんですけど、体力的にも新しいことに挑戦するのはギリギリかなと思って。子どもも大きくなって心配することも無くなったので、やりたいと思ったことには挑戦してみたい、楽しめることが一番！と思いお店のオープンを決めました。」

福田さんの奥様もアクセサリー作家として活動されるアーティストさんです。
店内にも真鍮やシルバー、金で作られたアクセサリーやビーズのアクセサリーなど、素敵な作品がたくさん並んでいました。

「もともとは焼肉店を経営していた頃に趣味でインディアンジュエリーのビーズ細工を習いに行っていたんです。そのなかで牛や鹿の革を扱うことがあって、そこから革細工にも興味を持ち、製作を始めるようになりました。その頃から、たまたま目にとめてくださったショップさんに作品を扱ってもらうようにもなりました。その後、興味のあった彫金を学びに学校へ通い、真鍮やシルバー、金で作られてたアクセサリーを作って10年ほどになります。」

「2、3年前に急に絵も描き始めました！絵は我流で基礎を習っているわけではないので、自分らしさを出したいと思ったら何かなと思い、彫金と合わせて作品にしました。私と夫の作風は全く違うんですけど、そのうち合作とか出来ていったらいいなと思ってます。」

オープンされたお店の名前は”8 gallery & cafe”。
その名前の由来をお尋ねしました。

「いろんな意味が込められています。単純に8という数字のフォルムが好きであったり、夫婦2人とも8月生まれであることだったり。あと8（eight）の頭文字それぞれに意味を込めています。それぞれの言葉には自分の大事にしていることが詰まっています。

e：enjoy（楽しむ）
i：infinity（継続的に）
g：grow（これからも成長していく）
h：happy（幸せ）
t：thanks（感謝）

また、8という数字は横にすると無限大にもなりますし、円が2つ繋がった形にも見えるので輪（縁）が繋がるという意味も込めています。」

福田さんに仕事をするうえで、大切にされていることをお尋ねしました。
「一番は楽しむことですかね。それが自分の絵を通してお客さんにも伝わればいいなと思っています。いい影響を与えられたら嬉しいですし、逆もしかりでいい影響をもらいたいなとも思います。
最近は、人の縁も大事だなと感じますね。切り絵を始めていなかったら出会っていなかったであろう人もたくさんいます。ここのお店もいろんな人の縁がつながって、協力していただいてできているので、これからもご縁を大切にしていきたいです。」

そんな福田さんをしんどい時期に救ってくれたのは切り絵だったんだそうです。
「焼肉店をやっていた時に、経済的に苦しく、しんどい時期がありましたが、そのモヤモヤを晴らすために切り絵をやってましたね。やっているときは無心になれるので切り絵に助けられていた部分もありました。それが今まで続くとは思っていなかったです。
フラガールの切り絵を買うまで、お金を出してアートを買うという意識も無かったんですけどね。その絵に出会っていなかったら、今切り絵をやっていなかったと思います。不思議なもんですけど、全て繋がっているのかなという感じもします。
アートって生活していく上で絶対必要なものではないですけど、あると絶対心が豊かになるものだと思うんです。自分の絵が人を助けられるきっかけになればいいなと思います。」

福田さんに今後の目標をお尋ねしました。
「ハワイで展示をすることが最終目標です。海外で展示をするならもっと日本的な切り絵の方がいいんじゃない？と言われたりもするんですけど、ハワイっぽいものをハワイでやりたいです（笑）最終的にそこまでいけたらいいなと思ってます！」

福田さんの作品は全てハワイをモチーフにされたもの。
見ているだけで明るい気持ちになれるような生き生きとした動きや色使いに、心がじんわり温まります。

作品に近づいてみるとその繊細さに驚きます。
幾重にも重ねられた紙にはそれぞれ細かく切り込みがされており、重ねられた紙が作り出す奥行きと陰影がとても素敵ですよね。
ギャラリーでは福田さんと奥様の作品を思う存分見ていただくことができます。
ぜひ、お近くに行かれた際には、お店に行かれてみてくださいね♪


いかがでしたか？
人生の中でも苦しかった時期に出会った1枚の絵をきっかけに、新たな道へと進まれることとなった福田さん。
どんな状況でも足元ばかり見ず、顔をあげてみることで新しい発見や良き出会いに気付くことができるのかもしれません。

▼8 gallery & cafe
〒582-0029
大阪府柏原市石川町4-1
営業時間：11:00－18:00
※営業日はInstagramをご確認ください
Instagram：https://www.instagram.com/8_gallerycafe/

福田さんInstagram：https://www.instagram.com/fkudat/
福田さんHP：https://fkudat.base.shop/
奥様Instagram：https://www.instagram.com/87hanalima/