誰しも経験するであろう、理想と現実のギャップ。私にとってのそれは、一人暮らしを始めた18歳の頃に訪れました。
念願の一人暮らし。「自分好みの部屋がつくれる!」と期待は膨らむものの、好きなものがなんでも手に入るはずもなく……。実家の自分の部屋がそのまま移動しただけのような、味気ない一人暮らしデビューとなりました。
「もっと大人になったら、今度こそ!」と意気込んでから早10年以上。我が家の現在地は……。
あの頃は想像もしていなかった、今の暮らし
我が家は、私、夫、3歳と5歳の子ども達の4人家族です。
築30年・4LDKのマンションは、夫の社宅。追い炊き機能の無いお風呂、すき間風が通る寒い部屋。冬の朝は窓一面の結露を拭くところから始まります。
決して快適ではない家。まして、10年前に思い描いた理想とは程遠い今の暮らしですが、実は結構好きなんです。
シール好きの息子によって、シール帖と化した壁。
幼稚園から持ち帰ってきた娘の作品がずらりと並ぶ棚。
10年前に夢見た理想の中に、こんな景色はありませんでした。
それは、良い意味での誤算。シール帖の壁も、おうち作品展も、理想のインテリアや空間を遥かに超えて、家族みんなを幸せな気持ちにさせてくれています。
理想までの道のりを、どう歩むか
子ども達が寝静まった後、夫と物件探しをしながら、「でも今の暮らしも好きなんだよね」と話していたら、昔、母にかけられた言葉を思い出しました。
進路に悩んでいた高校生の頃、私の前には2つの道がありました。
ひとつは、現時点で描く目標に、最短距離で進める一本道。もうひとつは、交差点が沢山あって、その都度選択して進んでいくような道でした。
母はこう言いました。
「やりたい事も、考え方も、変わっていいんだよ。出会いを大切にして、色んな影響を受けて、最後は一番良いところに辿り着くから大丈夫」
母の言葉を聞き、半信半疑ながらもどこか納得した私は、一本道ではなく、交差点が沢山ある方の道を選びました。
その結果、学生時代には多くの出会いに恵まれ、刺激を受け、悩み苦しむこともあったけれど、想像以上に充実した日々を送れた気がしています。
「ちょっと寄り道したりする余白があった方が、案外面白いもんだよ」
当時はピンと来なかった母の言葉の意味を、今ゆっくりと噛みしめています。
最短距離だけがベストではない
何事も無駄なく最短距離で。そんな考え方はスマートですが、時に味気ないもの。
遠回りしているように感じる今の暮らしも、理想にたどり着くのと同じくらいの意味があると信じていたいのです。
10年前の理想は、もう10年後に持ち越していこう。
それよりも、狭いお風呂に子ども達とぎゅうぎゅう詰めになって浸かり、寒い寒いと言いながらも寄り添って眠り、翌朝、窓の結露に絵を描きながら朝焼けに感動する子ども達の姿を、逃すことなく見つめていたい。
そうやって、ゆっくりと変わっていく暮らしを楽しみながら生きていきたいです。