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百人百色 -作品作りはまるで旅のよう-

刺繍作家 杉江 明寛さん

皆さんは時間を忘れてしまうほど何かに熱中した経験はありますか?
寝る暇も惜しいと思えるくらい、何か夢中になれるものに出会うことは、人生において大きな財産になるのではないかと思います。
人は自分1人の人生しか経験することはできませんが、いろいろな人の人生を知ることで、疑似体験をしたり、自分の人生だけでは触れられなかった価値観を知ることができたりしますよね。
『百人百色』は、さまざまな人生を歩まれている方々にお話を伺う連載です。



今回は、刺繍作家として活動されている杉江明寛さんに、人生の軌跡や大切にされている価値観についてお話を伺いました。

すぎえ刺しゅう







杉江さんのお店『すぎえ刺しゅう』は大阪市阿倍野区にある刺繍店。
ネームやマーク、デザイン、ワッペンなどの刺繍加工制作を行っておられます。





そして杉江さんは刺繍店のお仕事と並行して”MKM”というお名前で刺繍作家活動もされています。
素敵な刺繍作品が並ぶ店内で杉江さんにお話しを伺いました。

子どもの頃は職にすることはないと思っていた刺繍の仕事

刺繍をお仕事にされることになったきっかけをお尋ねしました。



「刺繍をするようになったきっかけは、家業が刺繍屋だったからです。子供の頃からミシンを触ったことはあったんですけど、ミシン=女の子というイメージがあったので、『こんなん絶対しないわ!』と当時は思っていました。」



「車が大好きで車に関わる仕事に憧れがあったので、最初の就職は車の板金工事の仕事をしていました。3年くらい勤めたんですけど、車を直すことに疲れてしまって辞めたんです。それから背広を着て鞄を持つ仕事に憧れて、営業職として3年ほど働いた後、長野のスキー場のホテルに泊り込みでバイトをしていました。春になってこっちに帰ってきた時にちょうど家業が忙しい時期で、『アルバイトで手伝ってくれへんか?』って言われて手伝いだしたのが最初のきっかけです。
それから店が忙しくて大変だということと、僕も職がなかったので、店を手伝うようになり、10年くらいは仕事を覚えるために見様見真似でやってきました。もともと絵を描くのが好きで、刺繍で表現してみたいなと思ったのをきっかけに、作家としての活動を始めたのは仕事を初めて10年経った頃ですね。」







「今は、刺繍店のネーム入れやワッペン制作などのアパレル関係のお仕事と並行して作家活動をさせてもらってます。作家活動としては個展を年に1.2回開催したり、グループ展にも参加させてもらったりしています。
板金工場で職人さんのような仕事をやらせてもらって、営業の仕事もやらせてもらってからこの仕事に就いたので、過去の経験も役に立っていると思います。」

子どもの頃は職にすることはないと思っていた家業である刺繍のお仕事。
しかし実際に職にしてみると、刺繍の奥深さにどんどんのめり込んでいかれたんだそうです。







「最初はコンピューターを使うような機械の仕事ばかりをしていて、ミシンの仕事は全くやっていなかったんです。でも絵を描くようになって、作家活動を始めてみたらやっぱり刺繍って面白いんですよね。絵を描いていくペン先が針先のような感覚で。ミシンや道具の使い方が上手くいかないと『くそ~!』と思ってどんどんハマっていきました。その道の先輩にも教えてもらってたんですけど、やっぱり先輩の作品は上手で綺麗で『これをなんとか越えたい!』ってのめり込んでいきましたね。」

作品作りはまるで旅行のよう



「やっぱり一番は、自分の作品がお客さんに手に渡って喜んでもらえる瞬間ですね。
あとは、作業をしていくと『こう縫ったらこんな風になるんや!』って自分でもわからなかった新しい縫い方を発見することがあるんです。他にも、先輩から口頭で教わったことが、『これが先輩が言ってたことか!』って見える時とか。そんな時は結構嬉しいですね。30年近くこの仕事をやってますが、まだまだ覚えなきゃいけないこともいっぱいあるし、新しい発見があることもやりがいを感じる瞬間です。」

30年近く刺繍のお仕事を続けていても、まだまだ新しい発見や学びがあるという杉江さん。
簡単に攻略できるものではないからこそ、その奥深さに夢中になってしまうのでしょう。
そんな杉江さんにお仕事する上で大切にしていることをお尋ねしました。







「仕上がりの状態は、どこにも負けたくないという気持ちがあります。なので、受けた仕事はきちっと仕上げて綺麗な状態でお渡しすることを大切にしています。
作品作りにも同じ思いがあります。例えば糸がちょっと出ているだけでも、全部が台無しになってしまう可能性があるので、細かいところまで気を遣って制作しています。」





「依頼されたものはお客さんが受け取られた時にどのような気持ちで受け取られるのかというのを考えてしまいますね。やっぱり喜んでいただきたいので、踏み込んで作品を作って、たまにやりすぎたかな?と思うこともあったりします(笑)。 自分の作品作りでは、『よっしゃ!出来上がったこれでもう完璧や!』って思うことはまだまだ少なくて、『ここをこうした方がええんちゃうかな……』『ここは赤色の刺繍糸で縫う予定やったけど、キラキラ光る糸の方がええんちゃうか……』とか、完成形がぼんやりとはっきりしないことの方が多いですね。作品作りは旅行みたいな感覚で、いろんな寄り道をしてやっと完成するという感じです。」

杉江さんの作品





杉江さんの作品は、どの作品も刺繍で描かれているとは思えないダイナミックな動きや繊細な針使いに圧巻されます。
正面から見た時と、光の当たった側面から見る時とで、作品の表情が変わるのも刺繍糸で表現された作品ならでは。





「自然な情景の一部を切り取って、刺繍を表現するというやり方が自分には合っているかなと思っています。去年1年は、猫が丸まっている”ニャンモナイト”に特化して作品作りをしていました。猫の作品だけを集めた個展も開催したんですけど、以前にやっていた海とか自然の情景を糸目で表現するやり方の方が自分には合っているなと思いました。 今後の作品作りでは、自分で発見した新しい縫い方をもっともっと良いものにしていけるようにしたいです。」





最後に杉江さんに今後の目標をお聞きしました。
「もっと作家活動の方にウエイトを置いていきたいと思っています。海外にも意欲的に挑戦して刺繍の表現を多くの方に評価していただけたら良いなと思います。実現できるようにこれからの活動も頑張っていきたいです!」

日本だけでなく、海外に向けても意欲的にアプローチをされ2018年~2023年は「ルクセンブルグ アートプライズ」に、2024年には「ニューヨーク選抜グループ展」への参加が決定されているそうです。
今後の杉江さんのご活躍にも目が離せません!


いかがでしたか?
30年近く刺繍のお仕事を続けていても、まだまだ新しい発見や学びがあるという杉江さん。 目指すゴールへの最短距離をただ走るのではなく、より良い道があるのではないかと寄り道しながらでしか、気付けない発見や学びがあるのかもしれません。

▼すぎえ刺しゅう
〒545-0021
大阪市阿倍野区阪南町5-5-4
HP: https://sugieshishuu.ko-co.jp/

杉江さんInstagram: https://www.instagram.com/mkm_emb/



 

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