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日々是、ほがらかに生きる|No.19

お弁当は親子の連絡帳 ~苦手だったお弁当づくりが好きになった理由~



いつもより20分早くセットしたアラームの音で目覚めたら、まだ寝息を立てる子ども達を起こさぬよう、そっと布団を抜け出す。
まだ夜明け前。眠い目をこすりながら、台所に立ってエプロンをしめる。気合のスイッチを入れるように「ふぅ」と一息ついて、私のお弁当づくりは始まります。

泣くほど苦手だったお弁当づくり



実は私は、お弁当をつくるのが大の苦手でした。
中学の頃、両親がつくったおかずを詰めるのは、子どもの役目でした。
詰める作業は、簡単にみえて結構難しい。
隙間にうまく詰められない。思ったようにぴったり入らない。
そぼろ弁当の日には、肉の茶色と卵の黄色がぴったり半分にできなくて、なんでこんなに下手なんだと、泣きながらお弁当を詰めたものです。



そんな私ですから、実家を出てからは一切お弁当を作らず過ごしてきました。料理を作るのは大好きだけれど、お弁当づくりというのは、料理とは全く違う脳を使う必要がある気がして、いわゆるクリエイティブなそれがすごく苦手だったのです。
敬遠していたお弁当づくりを再開したのは、結婚して少し経った頃。
節約のためにと渋々始め、あっという間に6年が経ち、子どものお弁当づくりも丸2年が過ぎました。
そして今、お弁当づくりは、私が最も好きな家事のひとつになりました。

お弁当は親子の連絡帳

(夜明け前のリビングで、お弁当が出来上がるのを待つ子ども達)

娘が幼稚園に入園する少し前、実家の母が話してくれたエピソードがありました。それは、私の姉が幼稚園に入園したばかりの、およそ35年前の話です。なんでも姉は、毎日母がつくるお弁当を、ほとんど残していたのだとか。
「すごく心配してね。でも理由を聞いても、答えてくれなくて」と振り返る母。初めての幼稚園生活で、不安と緊張で心がいっぱいになり、喉を通らなかったのでしょう。
理由は教えてもらえなかったけれど、毎回手つかずのお弁当を見ては、出来る限りの声掛けや心のケアをし、変わらずお弁当を作り続けたそうです。
その後、幼稚園生活にも慣れるにしたがって、お弁当も全部食べられるようになったのだとか。
母は私に「子ども達は、小さいなりに緊張したり、頑張りすぎちゃうところがあるから、親として寄り添ってあげてね」と言いました。
そのやりとりをした日から、私の中で、お弁当づくりが“面倒なもの”から“意味のあるもの”に変わっていきました。

お弁当に込める祈りとエール



幼稚園入園を控えた当時の娘は、期待と不安でいっぱいでした。初めて子どもを送り出す私の方も、実は不安でいっぱいだったのは言うまでもありません。
少しシャイで、何事にも慣れるまで時間がかかる娘。はじめましての先生やお友達に囲まれ、きっと不安でいっぱいだろう。そんな子ども達に私が元気を届けられるとしたら、それはお弁当なのかもしれないと思いました。そこから、例え理想通りにきれいに仕上がらなくても、さほど気にならなくなりました。それは、完璧なお弁当を作ることよりも、安心や楽しみを届けるという役割の方が、よっぽど大切だと気づいたからだと思います。

お弁当を介して伝わるもの



不安でいっぱいの園生活のはじまりでしたが、半年も経てばお友達もでき、心底楽しそうに通うようになりました。娘も、息子も、入園してから今まで、お弁当を残したことは一度もありません。彼らが食いしん坊だということはさておき、また、私の祈りが伝わっているかも、正直どうでもよいのです。



何より嬉しいのは、幼稚園が彼らにとって安心できる場所であることを、伺い知れること。空のお弁当箱を嬉しそうに見せながら、幼稚園での一日を聞かせてくれる彼らの笑顔が、眠い日も、アイデアが尽きた朝も、私を前向きに台所に向かわせてくれます。



期待・不安を和ませる、安心できるなにかを

今年の春から、お子さんを幼稚園や保育園に通わせるという方も、きっといらっしゃると思います。子ども自身も、お母さんも、楽しみと同時に緊張や不安があることでしょう。
そんな時、お互いが安心できることが見つかると、とても心強いと思います。
それは例えば、お気に入りのハンカチ1枚だったり、朝晩のハグだったり、家族で囲む夕飯の食卓だったり、もしくは我が家のように、お弁当なのかもしれません。



実は我が家も、今年の春に大きな変化が訪れる予定です。
楽しみな気持ちもありつつ、親としては不安の方が大きい今日この頃。

だからこそ、頭をよぎるさまざまな感情を和らげてくれる“安心できるなにか”の存在は、私にとっても子ども達にとっても大切なのだと実感します。
変化が多い春も、日々朗らかに暮らしていけますように。カーテンから差し込む柔らかい春の日差しを感じながら、そんな事を考えています。

顔写真
Profile 佐藤ちえみ
京都在住のフリーライター。京都好きが高じて、家族で京都に移住し4年目。京都・子育て・暮らしをテーマに執筆活動する傍ら、プライベートでは3歳と5歳を育てる二児の母。

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