そういえば、この包丁ってもう何年使ってるんだっけ……?」
半年ぶりに台所に立った夫が、私にふと、ひと言。
「う~ん、ざっと10年くらいかなぁ」
改めて思い起こせば、我が家の食卓を支えてくれた4本の包丁は、どれもが10年選手。
ここ最近は特に切れ味に物足りなさを感じつつも、買い換えるほどではないかと使い続けていたのです。
数年ぶりの、夫からの誕生日プレゼント
この会話をした翌日は、偶然私の誕生日でした。風邪気味だった息子は、昼食後に珍しく私の胸元でうとうと……。一方で退屈そうな娘は、なにやら夫とヒソヒソ話した後、小声で「おとうさんとあそんでくるね!」と言って、出かけていきました。
2時間ほど経ち帰宅した娘の手には、花の鉢植えが。「ケーキとプレゼントはあとでね♪」
とニコニコ笑う娘。
そういえば、去年は花柄のハンカチをくれたっけ。今年も娘が選んでくれたのかなと思っていたら、誕生日プレゼントはまさかの、夫が選んだ包丁だったのです。
モノの新陳代謝がもたらしたもの
ちょっと不便だけれど、まだ使える。
そうやって誤魔化しながらやってきた私の数年間に、夫はいとも簡単にピリオドを打ちました。
それでも最初は勿体なくて使えず。1週間経ってようやく古い包丁を1本捨て、新しい包丁を箱から取り出しました。
最初のひと切りで、その切れ味の違いに驚愕!「包丁ってこんなに切れるん?」という、なかば当たり前のような驚きが全身を巡ります。
それから何を切るのも楽しくて、面倒で億劫だった千切りキャベツや白髪ねぎを無償に切りたくなる始末。食べていても、いつもより格段と美味しい気がするので驚きました。
大切なのは、適切な量と質。北欧に根付くLagom(ラーゴム)という考え方
たった1本、されど1本。気持ちは誤魔化せても、モノは正直です。モノを循環させ、適切に取り入れていくことは、生活に潤いを与えてくれる。
そう身をもって感じた矢先、ふと耳にしたラジオ番組で、「Lagom」という、モノに関する概念が紹介されていました。
Lagomとは、多すぎず、少なすぎず、自分に合ったモノや量を良しとするスウェーデンの哲学だそう。「質より量」とか、「量より質」のように、どちらか一方を取ってもう一方を捨てるような考え方ではなく、量も質もどちらも自分にちょうどいいことが大切だという考え方なのです。「北欧には、こんな本質的なことを一言で表せる言葉があるんだ!」という発見と同時に、その概念が馴染むほどに日々モノに向き合っているのだと思い、遠い憧れの異国の生活に思いを馳せました。
気持ちよく新学期を迎えるために
3月は、別れの季節。モノとの付き合い方を見直すのにも良い季節かもしれません。
たった一本の包丁で、生活が変わったように、何かを手放し取り入れる1サイクルで、日々が何倍も豊かになることが他にもあるかもしれない。
こういうことって、日常の中で実は沢山ありますが、いざ思い出そうとするとなかなか思い出せない。でも、その循環がある度に、ちょっと気持ちが明るくなれる。そんな気がしています。
暮らしを整えるために、モノの新陳代謝にきちんと目を向けたい。我が家にも、そろそろモノとしっかり向き合うべき時がきたようです。鉄は熱いうちに打てと言いますが、後回しにしがちな自分を奮い立たせて、この機会にしっかり向き合ってみようと思います。
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