キラリオインテリアの山岡です。
京都・美山町にある、日本を代表する観光スポットのひとつ「かやぶきの里」と言えば、ご存じの方も多いのではないでしょうか。
美山町内には数多くのかやぶき民家が現存しており、その中でも「北村」と呼ばれる集落には50棟ある家屋のうち39棟がかやぶき屋根となっており、その古来から伝わる日本の風景を求めて連日観光客が訪れる人気スポットとなっています。
伝統的技法による歴史的景観の価値も高く評価されており、1993年(平成5年)には国の重要伝統的建造物群保存地区にも選ばれました。
そんな美山町で全国・全世界にかやぶき屋根を広めるべく、かやぶき屋根を専門に取り扱い、多くの職人を輩出している会社、美山茅葺株式会社を訪ねてきました。
美山の美しい風景と共にご紹介させていただきます。
今回お話をお伺いしたのは、美山茅葺株式会社の代表取締役である中野誠さん。
京都・美山町北に生まれ育ちますが、学生時代はかやぶき職人になろうとは夢にも思っていなかったそうです。
というのも、その時代は「職人=何の保証もない不安定な仕事」と捉えられていました。雨が降ったら休みになり、給料は出ない。毎月決まった給料が入るわけではなく、働いた日数分のみの給料。。。当然、中野さんのご両親やおばあ様は、会社に勤めて安定した生活を送ることを望みました。
初めはその希望通りに大手企業に務めた中野さんですが、いつしか「自分にしかできない仕事、ここでしかできない仕事をしたい!」と強く思うようになります。
そんな中野さんの転機となったのが、イギリスへのホームステイでした。
ヨーロッパでは各所にかやぶき屋根が存在し、かやぶき職人は若者にとってあこがれの職業だったのです。
そんな中、自分の故郷である美山の写真をヨーロッパ人の友達に見せたところ、ものすごい反響があったんだとか!
「こんな素晴らしいところに住んでいるのか?!」
「That's great!」
職人は決して恥ずべき職業なんかじゃないんだ!そう気づいた中野さん。
この体験がきっかけとなり、両親や祖母の反対を押し切ってかやぶき職人になる決意を固めます。
かやぶきの茅(かや)とは、屋根を葺く植物の総称のこと。使われるのはススキ藁、ヨシなどが主となりますが、美山のかやぶきにはススキが使われています。
屋根を一から葺こうと思うと、3tトラック15台分のススキが必要なんだとか!ものすごい量ですよね・・・。
かやぶき屋根は昔ながらの建造物として捉えられがちですが、実はヨーロッパでは最先端のエコ住宅として注目されており、様々なモダン建築にかやぶき屋根が取り入れられているんです。
かやぶき屋根の寿命はだいたい20から30年と言われています。役目を終えた茅は畑の肥料となって土に還り、私たちが食べる食料の元となります。つまりは、「究極のリサイクル」なのです。
また、断熱性と循環性に優れており、夏は風通りがよくて涼しく、冬は温度を保ってくれるので温かく過ごすことができます。
季節に合わせて呼吸をするかやぶき屋根は、実は日本のような四季のある風土にとてもマッチした構造になっているのです。
取材に伺った日はあいにくの雨でしたが、露に濡れるかやぶきも風情があって美しかったです。
大量の竹。竹と竹で茅を挟み、何層にも重ねていくことでかやぶき屋根を作り上げていきます。
さて、かやぶき職人になる決意を固めた中野さんですが、道のりは決してたやすくありませんでした。
22歳で脱サラし、当時3人しかいなかったかやぶき職人に弟子入り。徹底的な徒弟制度が当たり前の世界ですので、師匠が右と言えば右!「何でですか?」と尋ねることも口答えになるので聞けません。理由は聞く必要がない。やれと言われたらやるのみ!そのある意味理不尽ともとれる関係性に初めは戸惑ったそうですが、今思えば理にかなった考え方だとも感じるのだとか。
初めは理屈がわからなくても、後から気づくことがたくさんある。まず行動することの大切さを学びました。
弟子として走り続けて7年目。親方がケガをしたことをきっかけに独立することとなります。この時はまだ個人事業主としての独立です。
ですが、この時から既にゆくゆくは株式会社にすることを思い描いていました。
株式会社にする意味。
それは、中野さんにとって職人になると決めた時からの自らに課した使命でした。
職人の地位向上。安定した給料。安定した暮らし。
そのためには、株式会社にすることによる安定した職場環境づくりが不可欠でした。いくら雨が降っても毎月きちんと給料が入る。サラリーマンにとってはそんな当たり前のことを職人の世界でも実現させないと、職人が憧れの職種にならない。ヨーロッパで感じた感覚のように、職人って素晴らしいんだ!と思ってもらえるくらい、人々のイメージを変えたい!
そんな決意が中野さんを突き動かしていたのです。
現在、社員数は10名。全国でも珍しい女性の職人も数名在籍します。
職場環境の向上のため、炎天下での作業を強いられる真夏には思い切って会社全体を1か月夏休みにしてしまう、という画期的な福利厚生まで取り入れているそう。ゆっくり休む分仕事も頑張れる、そんな会社にしたい。だから、この福利厚生はこれからも続けていくそうです。
目指していた「職人が安心して働ける環境作り」は、日々進化しながら確実に実現しているように感じました。
「今の夢は美山を世界遺産にすること!」そう、中野さんは目を輝かせます。
世界遺産の登録には、景観保全はもちろんのこと、安全環境を整えたり来客をもてなす宿泊施設や振る舞う農作物も必要となってきます。
そのため、古民家を改築したゲストハウスの建築や、美山の美味しいお水で育てたお米の生産等々、多岐に渡った準備に日々奔走されているんだとか。
御年51歳。
まだまだ衰えることのない未来へ向けた活力と、チャレンジし続ける実行力に脱帽です。
その姿に、世界遺産の登録も決して夢なんかじゃないと感じずにはいられません。
いかがでしたか?
これからの季節は、紅葉に映える美山の風景もとっても美しいので、是非遊びに行ってみてください!
<美山茅葺株式会社>
京都府南丹市美山町北高倉69
電話番号:0771-77-0649
FAX番号:0771-77-0650
https://www.miyamakayabuki.com/
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