「ミシマオコゼ」「コショウダイ」「ハチビキ」。
これらの魚の名前を聞いて、その姿かたちが連想できる方は少ないのではないでしょうか?
これらの魚は、普段スーパーや近所のお魚屋さん等では見かけることがないけれど、実は食べると美味しい珍魚たちなんです。
今回は、そんな珍魚を通じて水産業界の様々な問題に斬新な切り口からチャレンジし続けている会社、株式会社食一様をご紹介したいと思います。
「大学を卒業したら、実家の家業を継ぐつもりだったんですよ。」
そう話すのは、株式会社食一 代表取締役 田中淳士さん。
田中さんの実家は、九州で魚の卸売業を営んでいます。
当然のように兄と家業を継ぐ将来を思い描いていましたが、大学で開催されたビジネスプランコンテストで優勝したことをきっかけに、起業の道へと進んでいくこととなります。
コンテスト用にビジネスプランを考える過程で、水産業界の様々な問題や課題に直面します。
年々魚が減少していっていることで水揚げ量が低下。取れ高がないために漁師が思うように稼げなくなったこともあって後継者となる若者が減少。益々魚が捕れなくなる・・・という負のスパイラルが蔓延していました。
一方、市場の魚に対するニーズは変わらない。
このままでは魚が高級食品となってしまう。もしくは、安い海外の輸入魚に頼らざるを得ない状況になってしまう。
自身も小さい頃から地元の美味しい魚を食べて育ってきただけに、水産業界が衰退していくのを黙って見ているわけにはいきませんでした。
「食を通じて社会を愉快にしたい!」
経営理念でもあるこの言葉は、この時から心にあったと言います。
ビジネスプランコンテストで優勝したのが大学3回生の冬。
思い立ったら即行動!の田中さんは4回生を休学し、2008年に「株式会社食一」を立ち上げます。
起業当時は産地とお店をつなぐ役割、いわゆる「産地直送」のビジネスを手掛ける予定でした。
しかし、その目論見は早々に崩れていきます。
初めから大量の魚を仕入れることができないため、小ロットで仕入れるには送料等のコストが想定以上にかかってしまい、スーパーに並んでいるものよりはるかに高くなってしまったのです。
壁にぶち当たった田中さんは、1ヶ月かけて九州・四国の海沿いをレンタカーを借りて車内で寝泊まりしながら毎日回り続けます。毎日毎日漁港に足を運ぶうちに、見たことのない魚が何種類もあり、それらのほとんどが捨てられているということに気づきます。
漁師さんにお願いし、その捨てられた魚を自分で捌いて食べてみたらとっても美味しかったんだとか!
こんなに美味しい魚なのに、知られていないことで食べてもらえないなんてもったいない!
これが、食一で珍魚を扱う第一歩となるのでした。
食一のトレンドマークとなっているミシマオコゼ。このミシマオコゼこそ、初めて売れた「珍魚」だったそうです。産地から自分自身で飲食店に持ち込み食べてもらったところ、美味しいのでお店で扱いたいと言ってくれたのです。
漁に同行し、一緒に釣り上げることも。この距離感が漁師さんたちとの信頼関係構築につながっているのですね。
ようやく事業が軌道に乗り始め、自分1人分の給料を自身の事業でまかなえるようになったのは3年目を過ぎたころでした。
(それまでは新聞販売の拡販営業でアルバイトをしながら、全国の漁港をまわり続けいていたんだとか・・・!)
ちょうどこの11月で食一は創業12年目を迎えました。
今年は新たに2名のメンバーも入社する予定だそうです。
人が増えてきたので漁港ごとに担当エリア等を設けているのか尋ねてみると、「エリアを分けてしまうと、食一らしさを損なう」と、きっぱり。
現在、取引のある漁港は100か所以上。他にも新たな開拓を求めて日々全国の漁港を回っており、時には極寒の海に一緒に漁に出かけることもあります。
そういった場には社長の田中さんだけでなく、全メンバーが同行して魚の仕入れ高を確認します。
食一では、この魚をあのお店におすすめしよう!と、ピンポイントで各飲食店様にプレゼンすることは日常茶飯事。その際、やはり自分の目で確かめた魚でないとお客様を納得させることなんてできません。
全メンバーが全エリアの漁港の特徴や取り扱い魚種を把握した上で、お客様への提案を行っているのです。
自分がお客様の代わりに全国の漁港を見てきているんだ、という自負が全メンバーにあるからこそ、いいものを仕入れる目利き力が身についてくるんですね。
食一が100か所以上もの漁港と関係を築けているのは、日々の信頼構築以外にも理由があります。
それは、仕入れ値。
通常は少しでも安く仕入れて高く売りたいもの。ビジネスとしては当然のセオリーですよね。
しかし、食一はできるだけ高く買う。(もちろん、売値を考慮した上で可能な限りですが。)
時には、漁師さんから提示された価格の10倍以上の値段でいいよ、と言う時もあるとか!
なぜそんな自分の首を絞めかねないことをするのか?
それは、食一の目指すところが自分たちだけが儲かる状況ではないからです。
「取引してても、続かなかったら何の意味もないじゃないですか!」田中さんはあっけらかんと、そう言います。
安く値切ったせいで適当に状態の悪いものを出されたらお客様に提供できないし、お互いに気分が悪い。高く買う代わりに良い状態の魚を気持ちよく取引できた方がいい。安く買える魚が欲しいわけじゃない。お客様が喜ぶ美味しい魚が欲しいから。
また、商売は持ちつ持たれつ。
食一が苦しいときは助けてもらうし、少しでも余裕があったら還元する。
その関係性が、100か所以上もの取引先を継続させている所以なのでしょう。
自分で魚の状態を確かめて、メンバー一人ひとりが仕入れ値を交渉します。
食一は、お店とも漁港とも、「食一だったら」と言ってもらえる関係性を目指しています。
少しずつかたちになってきた今、田中さんの頭の中にはすでに次のステップが描かれていました。
起業を始めたきっかけ。
「水産業界を変えたい」
「漁師をひとつの職業として、多くの人が目指すものにしていきたい。」
現在、漁船を買い取る計画を進めているとのこと。
その漁船で食一自ら漁を行うだけでなく、漁船を使ってボートレースのようなレジャー施設を設けたり、子供が漁業を体験できるようなものを企画したり。
漁船を使って新たな流通を起こすことで漁師が生業として成立し、漁師を目指す人たちが増え、水産業界が今よりもっと発展する状況を作りたい!そう田中さんは目を輝かせて語ってくれました。
日本の水産業界が潤ってくれないと、私たちが美味しい魚を日々食すこともできなくなりますもんね。
頑張る食一を応援するだけでなく、私たち一人ひとりにも簡単にできることはきっとあるはず。
私も、まずは日本で獲れた美味しい魚を食卓に並べることから始めてみたいと思います。
<株式会社食一>
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